人工知能と重力波

重力波の信号はとても小さくて雑音に埋もれています。しかもいつ来るのか分かりません。時間と周波数の範囲を絞り込んでフィルタをかけて、ようやく見えてくるかどうか、というものです。
雑音をもっともよくフィルタする方法は、望遠鏡の出力に重力波信号とまったく同じ波形を掛け合わせるマッチドフィルタという方法であることが知られています。例えばブラックホール連星の公転運動がもたらす重力波は、周波数と振幅が時間と共に上昇するチャープ信号と呼ばれる波形なので、その時間に合わせてフィルタする周波数を動かしていくのがベストということになります。しかし、ブラックホールの大きさなどによって波形(テンプレート)は変わりますし、望遠鏡に到着した時刻も不定ですから、そのあたりは網羅的に探索することになります。スピンなど細かいことを無視したテンプレートでも数十万個あるのですから大変です。

最近は重力波観測でも人工知能が活躍し始めています。人工知能は人とは違う判断基準でデータを評価し、かつ非線形に(つまり、切り取ったデータのどの部分を重視するか、のような重みづけだけでなく、あるデータ部分と別のデータ部分を掛け合わせたり割ったりすることもできる)組み合わせることができるのが強みです。マッチドフィルタに精度では及ばなくとも、より早く見つけることができるというわけです。また、実際のマッチドフィルタでは解析時間を考慮して、ブラックホールのスピンの向きなどの詳細を無視して探索していますから、そのあたりも加味して人工知能に探索させれば、過去のデータの中にいままで気づかなかった信号が見つかったりするかもしれません。
ただし、条件を追加すると、人工知能のトレーニングに必要な時間が増えていきます。トレーニングが終わってからは早いけど、トレーニングに必要な時間が膨大、なんてことになると実装が難しくなります。トレーニングのためには人の手で作成した重力波信号のデータが必要です。数値相対論コードで重力波の波形を計算するには時間がかかるので、異なる信号データを集めるのも大変です。というわけで、ボタンを押したらすぐ人工知能が見つけてくれる、というわけにはいかないのです。